アンコール マリアージュ
 海沿いを歩いてショッピングモールの前まで来ると、駅の方へと繋がる長い橋に出た。

 「ここは汽車道っていうんですって。昔、実際に汽車が走っていた所らしいです。ほら、地面に線路の上の部分が残ってる」
 「ほんとだ。へえー、レトロな雰囲気でなんかいいな」

 真菜はメモ帳を見ると、キョロキョロと何かを探し始めた。

 「確か北側に、一段下がったプロムナードがあるって聞いたんですけど…。あ!こっちから行けるみたい」

 階段を下り、水際に沿った遊歩道に出た。

 「おおー、見晴らしいいな、ここ」
 「ええ。水面に色んな景色がキラキラ反射して、とっても素敵」

 橋の上とは違って人通りも少なく、静かに二人は水面を見つめる。

 「この間挙式されたカップルから聞いたんです。まだ友達関係だった時、夜にここで告白して、付き合う事になったんですって」
 「ああ、確かに夜景は綺麗だろうな。雰囲気もいいし」
 「ですよねー。だから1度来てみたくて。まだ昼過ぎだけど、告白するには充分な雰囲気ですよね。という訳で、はい、どうぞ」
 「は?何が?」
 「だから、告白ですよ」
 「ああ、そうか。今なのか」
 「夜景を待ってたら、プロポーズまでたどり着けないので。まだ明るいですけど、お気になさらず。はい、どうぞ」

 どうぞって、お前なあ…と渋ってみるが、真菜は真剣に真を見つめて待っている。

 「えー、では…。ゴホン!ずっと前から好きでした。僕と付き合って下さい。お願いします!」

 そう言って頭を下げなから右手を差し出した。

 シーン…と沈黙が広がる。

 「ちょっと、真菜?」

 耐え切れなくなり顔を上げると、真菜は、うーん…と考え込んでいた。

 「え…、今ので女の子はOKするんですか?何かのテレビ番組みたいでしたけど?」
 「そ、そんなの知らん。俺だって、こんな告白した事ないんだから」
 「ええー?!真さん、告白した事ないの?」
 「なんだよ!真菜にだけは言われたくないぞ?」
 「そんな、お互い様じゃないですか。真さんだって、私と似たような…」
 「ええい、もう、うるさい!」

 真は真菜の手を取ると、グッと引き寄せ、腕の中に抱き締めた。

 「真菜、お前が好きだ。俺のものになれ」

 ギュッと力を込めて抱き締めながら、耳元で熱く囁く。

 やがて、ゴ、ゴホン、と真菜の咳払いが聞こえてきた。

 「えー、はい。分かりました」
 「は?何だよ、それ」
 「無事にカップル成立です。おめでとうございます」
 「お前…、もうちょっと気の利いた返事は出来ないのか?」
 「さ!次、行きますよ。いよいよ『恋人達のデート』編です!」
< 159 / 234 >

この作品をシェア

pagetop