アンコール マリアージュ
 真剣に話をしていた菊池は、やがてパソコンを打つ手を止めて、顔を上げた。

 「では最後に、せっかくですから、真菜さんと専務がお話されてる様子を写真に撮らせて頂けますか?お互い笑顔でお願いします」
 「は?!」

 真菜は、すっとんきょうな声を上げる。

 「いえ、あの、専務は雲の上の存在ですから、私の様な下々の者とお話なんてそんな、滅相もない」

 真菜がブンブン手を振っていると、隣から、
 よく言うよ、と声がした。

 「…はい?今、何かおっしゃいました?」
 「別に。どの口が言ってんだって思っただけだ」
 「この口ですけど、何か?」

 小声でいがみ合う真菜と真を、まあまあと菊池がなだめる。

 「えっと、さっきまで非常に良いお話を聞かせて頂いてましたが、どうしたんでしょうかねえ、ははは。では、とにかくお二人並んだお写真だけ撮らせて下さいね」

 もう少し近付いて、と言われ、仕方なく真菜は真と肩を並べる。

 と、ふいに真が声をかけてきた。

 「おい、お前、その顔どうにかしろ」
 「はいー?私に喧嘩売ってます?」
 「そうじゃない。いくらなんでも酷すぎるぞ」
 「失礼な!うら若き乙女に、顔が酷すぎるとは。例えお偉い方のお言葉でも、黙って聞き流す訳にはいきませぬ」
 「その変な口調もやめろ。とにかく、鏡見て来い」

 真菜がムッとすると、菊池も恐る恐る口を挟む。

 「確かに。あの…真菜さん?ちょっとこれ見て?」

 そう言って菊池が差し出したコンパクトミラーを覗き込み、真菜は、ギャー!と悲鳴を上げた。
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