アンコール マリアージュ
 「ふう…」

 自分のデスクに戻ると、真は大きく息を吐き出して天井を仰ぐ。

 あの取材の日、記者からブライダルフェアのモデルについて聞かれた時、ようやく真は思い出したのだ。

 以前、真菜と一緒に、模擬挙式の新郎新婦役をやった事を。

 (仕事の一環だったから、すっかり忘れていた。それに、大して意識もしていなかったし…)

 だが、真菜は違う。
 真菜にとっては、あの模擬挙式は大きな出来事だったのだ。

 なぜなら、あの誓いのキスは、真菜にとってのファーストキスだったのだろうから。

 (だからあの時真菜は、観覧車の中で悲しそうに呟いたんだ。もう、ファーストキスをここで、という夢は叶わないと。そして、俺がそれに気付かなかった事にもショックを受けたのだ)

 好きでもない、しかも、会ったばかりの相手にファーストキスを奪われてしまった。

 一生に一度と夢見たウェディングドレスも、結婚式も、誓いのキスも、何もかも…

 自分が真菜の夢を全て奪ってしまったのだ。

 そう思うと、胸が張り裂けそうだった。

 (なんて謝ればいいのか…。もう彼女に合わせる顔もない)

 デスクの上に両肘を付き、組んだ手の中に顔を埋めて、真はまた大きなため息をついた。
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