アンコール マリアージュ
 「真菜ー、そろそろ上がれるか?」

 オフィスに顔を覗かせた拓真に、うん、もう終わると真菜は答える。

 「じゃあ、ガーデンで待ってるよ」

 分かったと返事をして、真菜はロッカールームに向かった。

 着替えながら、つい手を止めてため息をついてしまう。

 仕事中は集中しているが、勤務を終えれば途端に頭の中は、真との事で一杯になる。

 (もう、前みたいには話せないのかな…)

 気を抜くと涙が溢れそうになり、慌てて顔をペチペチと叩いて、ロッカーを閉めた。

 「拓真くん、お待たせ」
 「お、じゃあ帰るか」

 肩を並べて二人でガーデンの階段を下りる。

 「そう言えばさ、明日発売の雑誌の記事、本社からメールで届いてたよな。見たか?」
 「ああ、うん。チラッとね」
 「すんごい良く書かれてたぞ。うちの事べた褒め。俺、もしや社長、なんか金でも握らせたのか?って一瞬疑ったくらいだぜ」
 「あはは!それはないよ。でも、拓真くんの撮った写真も提供したんでしょ?すごくいい写真ばかりだったもん」
 「新郎新婦のお二人も、載せていいって言ってくれたしな。あ、お前のブッサイクな顔は、わざと外してやったぞ」

 真菜は、ぶうと膨れて拓真を睨む。

 「なによー、ブッサイクって」
 「あれをブッサイクと言わないで、何をブッサイクと言うんだ?」

 ますます膨れる真菜に、ははっと笑ってから、拓真は急に真顔に戻った。

 「でもさ、テレビ放送の反響もまだ残ってる所に、明日あの雑誌が発売されるだろ?またお前を指名して予約が殺到するぞ。大丈夫か?」
 「ん?そんな、私ばかり指名されないよ。店長が割り振ってくれてるし」
 「でも店長、なんとかして他の担当者で納得してもらおうとお客様に頼んでる所、俺何回も見たぞ」
 「え、そうなの?」
 「ああ。だから、明日からもちょっと心配でさ。本社のお偉いさん、早くうちに社員増やしてくれるといいな」

 そうだね、と真菜も頷いた。
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