アンコール マリアージュ
 17時を過ぎ、ようやくフェリシア 横浜に到着した真は、オフィスに足を踏み入れた途端、驚いて立ち止まった。

 オフィスにいる全員が、電話に応対している。

 そして口々に、
 「齊藤は、ただ今接客中でして。わたくしでよろしければ承りますが?」
 と頭を下げていた。

 (こ、これは…。雑誌の反響がここまで?しかも、全ての電話が真菜宛なのか?)

 やがて、会話を終えた店長が受話器を置いて真を見た。

 「専務、お疲れ様でございます」
  「ああ、雑誌を持って来た。遅くなってすまない」
 「いえ、ありがとうございます。助かります。なにせ、朝からずっとこの雑誌の記事に関するお問い合わせばかりで…」

 真は、ひっきりなしにかかってくる電話に、受話器を置いては、すぐまた上げるスタッフ達を見る。

 「大丈夫か?今日は他店からのヘルプを増やしておいたんだが…」
 「いえ、人手不足ではなく、何と言いますか…真菜不足ですかね?皆様、真菜をご指名ですから」

 真は、小さくため息をつく。

 「それで、真菜は今?」
 「サロンで接客中です。あの子、お昼も食べてなくて…。この打ち合わせが終わったら、もう帰らせようかと。先月のテレビ放送以降、すっかり『時の人』になって、ずっと忙しくしているので」

 頷いた真は、そっとパーテーションからサロンの様子をうかがった。

 テーブルを挟んで、真菜がカップルと楽しそうに話をしている。

 「それでは、日取りは確定しましたので、次回はもう少し詳しくお話させて下さい。ドレスのご試着もしてみましょうね」
 「はい!凄く楽しみです。よろしくお願いします」

 笑顔でお二人と打ち合わせを終えた真菜は、立ち上がり、扉を開けてお辞儀をしながら見送ると、テーブルを整えて資料を手にオフィスに戻って来た。

 真の姿を見て、驚いた様に立ち止まる。

 「あ、お疲れ様です」
 「お疲れ様。大丈夫か?顔色が良くない」
 「いえ、大丈夫です」

 そう言って脇をすり抜け、自分のデスクに戻る。
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