アンコール マリアージュ
 どれくらい経ったのだろう。

 ふと、真さんと言う真菜の声が聞こえて目が覚める。

 (いつの間にか、俺も眠ってしまったのか…)

 そう思い、ベッドの上に目を向ける。

 真菜はもう一度、真さんと呟いた。
 だが、顔は壁に向けたままだ。

 (ん?誰に話しかけてるんだ?)

 「今日もかっこいいね、真さん」

 そう言うと真菜は、そっと壁に手を伸ばす。

 (…えっ、これって)

 暗闇に目を凝らすと、壁にたくさんの写真が貼ってあるのが見えた。

 (これ全部、あの模擬挙式の時の?)

 並んで歩く二人、向き合って見つめ合う二人、そして優しくキスしている二人の写真…

 (ど、どうしてこの写真を?真菜は、この模擬挙式にショックを受けていたはず。俺が、真菜の憧れや夢を全部奪ってしまったから…)

 そっと写真をなぞっていた真菜が、やがてくるりとこちらに寝返りを打った。

 ベッドのすぐ側の床に座っていた真と目が合う。

 2秒、いや3秒?
 とにかくしばらく見つめ合ったあと、真菜は声にならない悲鳴を上げて飛び起きた。

 「ううううぎゃー!な、なんで?ま、真さん?生?え、生身の真さん?」
 「ちょ、ちょっと待て。俺はもはや、人間とは思われてないのか?」
 「ギャー!しゃべった!嘘でしょ?!夢?え、夢から現れた亡霊?」
 「落ち着け!俺はれっきとした生身の人間だ!」

 思わず叫ぶと、真菜は両手で頬を押さえて目をぱちくりさせている。
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