アンコール マリアージュ
 「あの、真さん?不法侵入ですよ?」
 「お前なあ。運んでやったのに、なんだよその扱いは」
 「え、運んだ?私を?」
 「ああ。お前、会社で倒れたんだ。だから車でここに運んだ」
 「会社で?あ、ほんとだ。制服のままだ」
 「それより、熱はどうだ?下がったか?」

 真は真菜の額に手を当てる。

 「んー。だいぶ下がってるけど、まだ少し熱いな。もう少し寝てろ」
 「私、熱があったの?」
 「ああ。測ってないけど、多分38度近くあったかも」
 「ええー、そんなに?私、熱出したのっていつ以来だろう…。5年ぶり?いや、もっとかも」
 「それくらい、最近無理してたって事だ。いいからもう1度寝ろ。まだ夜中の3時だ。朝までしっかり休め」

 真菜は素直に頷いて、布団に潜り込む。

 「じゃあ俺、今のうちに駅前のコンビニで何か買ってくるよ。何がいい?お粥と、ヨーグルトとかはどうだ?」
 「じゃあ、たまご粥と、ストロベリーヨーグルト」
 「分かった。ちゃんと寝てろよ?」

 そう言って立ち上がった真の服を、真菜が腕を伸ばしてちょこんと摘んだ。

 「おい、掴んでたら行けないだろうが」

 すると真菜は、目元まで布団を上げながら、真さん?と呼びかけてくる。

 「なんだ?」
 「ちゃんと帰ってきてね?」
 「あ、ああ。もちろん」

 真菜は、ふふっと子どもの様にあどけなく笑って手を離した。
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