アンコール マリアージュ
ピンポーン、というインターホンの音を聞きながら、302号室の前で、真菜は深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
すでに夜の9時半を過ぎており、こんな時間に訪問する事もためらったが、事情が事情だけに早い方がいい。
それにここは、会社の寮だ。
相手も同じ会社で働いている同僚なのだと思うと、少しは気が楽になった。
「はい」
インターホンから聞こえてきた低い声に、思わずゴクッと唾を飲み込んでから、真菜は恐る恐る話しかける。
「あの、夜分遅くに申し訳ありません。私、202号室の者なのですが、間違ってうちのポストにこちら宛の封筒が入っていまして…それで」
「ああ、だったらそこのドアポケットに入れておいてください」
「あ、はい。そうしたいのは山々なのですが、のっぴきならない事情でそうもいかず…」
「はあ?」
あからさまに不機嫌そうな声がしたあと、ちょっと待って、と通話が切れた。
「は、はい」
もう聞こえていないだろう相手に返事をして、言われた通りに待っていると、ガチャッと玄関のドアが開いた。
真菜はすぐさま頭を下げる。
「こんな時間に申し訳ありません。封筒の宛名をきちんと確かめずに封を切ってしまいました。中の手紙は読んでおりません。あ、見出しの部分だけは、読んでしまいました。それと、あの、封を手で切ったものですから、少し中の手紙も破けてしまって。本当に申し訳ありません」
とにかく下を向いたまま封筒を差し出すと、無言のまま受け取られた。
カサッと手紙を取り出して、目を通したらしい相手がようやく口を開く。
「分かった。大した内容の手紙じゃない」
「あ、そうですか。良かったです」
「それにしても、酷い破き方だな。O型か?」
「いえ、それがビックリまさかのA型でして…」
「こんなA型いるのか?そもそも、中の手紙まで破る開け方するやつなんて、見たことない」
「そうですか。私はいつもこの開け方でして、中身を破く事にも慣れておりますけど」
「凄い人種がいたもんだな」
「幻の珍獣に出会った感じですかね?以後お見知りおきを…」
ひたすら身を縮こませていた真菜は、急に聞こえてきた笑い声に驚いて顔を上げる。
「お前、相当おもしろいな」
ずっと低い声で威圧的に話していた相手が、おかしそうに笑っていた。
その姿にホッとした真菜は、次の瞬間、あー!と大きな声を出した。
すでに夜の9時半を過ぎており、こんな時間に訪問する事もためらったが、事情が事情だけに早い方がいい。
それにここは、会社の寮だ。
相手も同じ会社で働いている同僚なのだと思うと、少しは気が楽になった。
「はい」
インターホンから聞こえてきた低い声に、思わずゴクッと唾を飲み込んでから、真菜は恐る恐る話しかける。
「あの、夜分遅くに申し訳ありません。私、202号室の者なのですが、間違ってうちのポストにこちら宛の封筒が入っていまして…それで」
「ああ、だったらそこのドアポケットに入れておいてください」
「あ、はい。そうしたいのは山々なのですが、のっぴきならない事情でそうもいかず…」
「はあ?」
あからさまに不機嫌そうな声がしたあと、ちょっと待って、と通話が切れた。
「は、はい」
もう聞こえていないだろう相手に返事をして、言われた通りに待っていると、ガチャッと玄関のドアが開いた。
真菜はすぐさま頭を下げる。
「こんな時間に申し訳ありません。封筒の宛名をきちんと確かめずに封を切ってしまいました。中の手紙は読んでおりません。あ、見出しの部分だけは、読んでしまいました。それと、あの、封を手で切ったものですから、少し中の手紙も破けてしまって。本当に申し訳ありません」
とにかく下を向いたまま封筒を差し出すと、無言のまま受け取られた。
カサッと手紙を取り出して、目を通したらしい相手がようやく口を開く。
「分かった。大した内容の手紙じゃない」
「あ、そうですか。良かったです」
「それにしても、酷い破き方だな。O型か?」
「いえ、それがビックリまさかのA型でして…」
「こんなA型いるのか?そもそも、中の手紙まで破る開け方するやつなんて、見たことない」
「そうですか。私はいつもこの開け方でして、中身を破く事にも慣れておりますけど」
「凄い人種がいたもんだな」
「幻の珍獣に出会った感じですかね?以後お見知りおきを…」
ひたすら身を縮こませていた真菜は、急に聞こえてきた笑い声に驚いて顔を上げる。
「お前、相当おもしろいな」
ずっと低い声で威圧的に話していた相手が、おかしそうに笑っていた。
その姿にホッとした真菜は、次の瞬間、あー!と大きな声を出した。