アンコール マリアージュ
 「ご馳走様でした。ありがとうございました」

 車に乗り込んだ社長に頭を下げると、こちらこそ、楽しい夜をありがとうと、社長は真菜に笑いかける。

 そして真に、彼女をちゃんと送って差し上げるのだぞ?と念を押してから去って行った。

 車を見送った二人は、ぽつんとホテルのエントランスに立ち尽くす。

 「えっと、じゃあ、行こうか」
 「はい」

 肩を並べて駅への道を歩き出す。

 「あー、その、体調はどうだ?熱は下がったか?」
 「はいー?熱って…、あれ半月以上前の事ですよ?」
 「そ、そうだったな。お粥とヨーグルトは、ちゃんと食べたのか?」
 「頂きました。半月以上前に、ですけど」
 「そうか、それは、良かったな」

 真菜は、小さくため息をつく。

 (あーあ、やっと私、真さんのことが好きって気付いたのに。今夜だって、真さんに久しぶりに会えるって、楽しみだったのに。なんだか真さんは、全然楽しくないみたい)

 黙ってひたすら駅への道を歩いていた真が、やがてふと立ち止まって真菜を見た。

 「頼みがあるんだけど、いいか?」
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