アンコール マリアージュ
 「うわー、どれもこれも綺麗!素敵ねー」

 モデルの二人を見送ったあと、早速オフィスで大きなモニターに映しながら、撮ったばかりの写真を確認する。

 「これ、この角度!璃子ちゃんの左側から撮るのが、この二人の黄金角度なんだよ」

 拓真のセリフに、真菜はぷっと吹き出す。

 「黄金角度?そんなのあるの?」
 「あるさ。見て!この璃子ちゃんの綺麗な横顔。それでもって、少し離れた所から優しく璃子ちゃんを見つめる陸の眼差し。はー、もうたまらんな」
 「ふふ、それは確かにそうだね」

 興奮気味に、次々と写真をモニターに映し出す拓真に、真菜はふと聞いてみる。

 「ね、拓真くんは横浜の他の店舗でも撮影してるでしょ?他店はどんな感じなの?」
 「んー、そうだな。式場ごとにコンセプトが違うから、一概に比較出来ないけど。ひと言で言うと、例えば『ローズ みなとみらい』はゴージャスな感じだな。『カメリア 新横浜』は、パッと明るい雰囲気。『ミュゲ 美しが丘』はシンプルで洗練されてて、『マルグリット 葉山』は、ナチュラルな感じ」
 「へえー!拓真くん、凄くよく分かってるんだね」
 「当たり前だろ?カメラマンなんだから。その場所の雰囲気とか、コンセプトはいつも大事にしてる」

 真菜は、感心したように拓真を見つめる。

 「凄いねー、カメラマンって」
 「そうか?普通だけど。ちなみにさ、撮影してると、あ~この人こういう性格なのかー、みたいなのも分かるよ」
 「えっ、そうなの?」
 「うん。俺らって、一瞬たりともシャッターチャンスを逃さないようにカメラ構えてるだろ?そうすると、モデルさんがふと気を抜いて、素に戻る瞬間が分かるんだ。あ~、疲れたって感じの人もいれば、つまんないなーって表情になる人もいる。でも璃子ちゃんは違うね。あどけない少女みたいになるんだ。純粋で透明感が溢れてる。だからどの写真も綺麗なんだよなー」

 モニターを見ながら熱弁を振るう拓真の横顔に、真菜は、もしや…と考える。

 (拓真くん、璃子ちゃんのこと好きなのかな?)

 でなければ、こんなに熱く語れないだろう。

 (でもなー、璃子ちゃんは絶対に陸くんと別れたりしないだろうな。あんなお似合いのカップルもそうそういないもん。拓真くん、ここはひとつ、諦めてはくれないだろうか)

 ポンポンと肩を叩いてくる真菜を、拓真が奇妙な顔で振り返った時だった。
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