アンコール マリアージュ
 「実際にやってみましょ!まず、真さんはここから歩いて行って、列席のゲストからお花を受け取ります。はい、どうぞ」
 「あ、どうも」

 真菜が渡す真似をし、つられて真も受け取る真似をする。

 「全員から受け取ってくださいね。ほら、もっとにこやかに。おめでとう!お幸せにねー」
 「あ、はい。どうも」
 「全部受け取ったら、この階段を上がってください。ここが祭壇代わりになります。そして、私達スタッフが、素早くリボンでまとめてブーケにしますね。すると新婦が入場して来ます。はい、私が新婦役です!さあ、ブーケを差し出してプロポーズを」
 「え、ええ?今?」
 「そう、今です!」
 「あ、じゃあ、結婚してください」
 「ブッブー、30点」
 「はあ?」

 真は呆れたように眉を下げる。

 「一生に一度のプロポーズですよ?そんな低いテンションで、綺麗な花嫁からオッケーの返事を貰えますか?はい、やり直し!」
 「はあ、じゃあ…。君の人生を僕に預けてください、お願いします!」

 え…と真菜が真顔に戻る。

 「真さん、そういうタイプだったんですか?なんか意外…」
 「なんだよもう!どうでもいいだろ?どれが正解なんだよ」
 「確かに。正解なんてないですよね。愛がこもっていればそれで充分ですよね」
 「やれやれ…。実際はどういうのが多いんだ?」
 「そうですね、結構皆様長くお話されますよ。出会った時からずっと君の事が好きでした、から始まって、最初のデートでは~とか、エピソードを細かく話されたり…。反対に、片膝を付いてズバッとひと言、結婚してください!って勢いよくプロポーズされる方もいらっしゃったり」
 「へー、おもしろいな」
 「私は、毎回感動してしまいます。新婦様より号泣しちゃって、何度先輩に怒られたことか…」
 「ははっ!想像つく」

 真は思わず笑い出す。

 「お二人の幸せな瞬間に立ち会えるなんて、素敵な仕事ですよねー。どんな恋愛ドラマを見るよりも、感動して泣けてきます。私、毎回箱ティッシュ1個使い切りますよ」
 「お前、どんだけ?!」

 驚く真をよそに、ふふふと真菜は嬉しそうに笑っている。

 「さ!じゃあ、そろそろオフィスに戻りますね。真さんは?本社に戻られるんですか?」
 「ああ、そうだな」

 そして、あ!と思い出す。

 「ん?どうかしましたか?」

 真菜が首を傾げて振り返る。

 「あ、いや、その…。最近郵便物、どうだ?何か変わった事とか…」
 「ああ、郵便屋さんの入れ間違いですか?あれから宛名はしっかり確認してますよ。大丈夫です」
 「そ、そうか。そうじゃなくて、いや、いいんだ」

 ん?と、真菜は不思議そうな顔で真を見る。

 「とにかく!何かあったらいつでも知らせてくれ。じゃあ」

 そう言って片手を挙げると、真は足早に去って行った。
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