アンコール マリアージュ
 しばらくしゃくり上げていた真菜が、いつの間にか腕の中でスーッと眠り始めた事に真は気付く。

 緊張から開放されて安心したのだろう。

 真はそっと真菜を抱き上げ、ベッドに寝かせた。

 電気を消して、部屋の中が一気に暗くなった時だった。

 「いやっ!」

 急に真菜が、叫びながら飛び起きた。

 「やめて!怖い…離して!」

 暗がりの中、何かに抵抗するように必死で手を動かしている。

 「真菜!落ち着け。俺だ、分かるか?」

 真が真菜の肩を掴んで顔を近付けると、真さん?と真菜は呟く。

 「ああ、そうだ。ごめん、すぐに電気を点けるから」

 そう言って、ベッドサイドのランプを点けた。

 ほのかな灯りの中で、真菜は深呼吸して気持ちを落ち着かせようとしている。

 真は、考えながら口を開いた。

 「真菜、俺のマンションに一緒に来い」
 「え?真さんのマンション?」
 「ああ。みなとみらいに部屋を借りたんだ。部屋数もあるし、もういつでも入居出来る。すぐに引っ越そう」

 真菜は、驚いたように瞬きを繰り返す。

 「でも、一緒に住むなんてそんな、結婚もしてないのに…」
 「古風な考えもいいと思うが、そんな事言ってる場合か?引っ越し先が決まるまでの間、ただ部屋を間借りすると思えばいいだろう。それとも、このままここでひとり暮らしするか?」
 「いや!それは…、無理です」

 真は、真菜の頭にボンと手をやる。
 
 「だったら俺と一緒に引っ越そう。それが1番安全だ。お前は自分が思ってる以上に、心にダメージを受けている。しばらくは穏やかな時間が必要だ。な?俺と一緒に来い」

 (それにもし、事件にあの新婦が絡んでいるとしたら…。社員を守るのは会社の義務だ)

 真が真剣な表情で真菜を見つめていると、やがて真菜はコクリと頷いた。
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