アンコール マリアージュ
 「はあ、なんでこんな事に…」

 控え室のドレッサーの前に座った真菜は、しょんぼりとため息をつく。

 「まあまあ、綺麗なドレス着られると思ったらラッキーじゃない?」

 普段よりさらに手際良く、真菜の髪をクルクルとホットカーラーで巻きながら希が言う。

 「え、それってラッキーなんですか?私、自分の本当の結婚式でしか、ドレス着たくなかったんです…」
 「へえー、意外と昔の考え方なんだね、真菜って。もしかして、バージンロードはバージンで歩くの!とか思ってないよね?」

 あはは!と明るく笑った希が、鏡越しの真菜の顔を見て真顔になる。

 「え、ええ?真菜、まさか…そう思ってるの?」

 答える代わりに半泣きの表情になった真菜を見て、希は仰け反って驚く。

 「嘘でしょー!今どきそんな人いる?それに真菜、確か23才だよね?」
 「なんでそんなに驚くんですか?いいじゃないですかー、そんなふうに夢見たって」
 「ご、ごめん。うん。そうね、そうよね」

 今にも泣きそうな顔の真菜に、希は必死で取り繕う。

 「そっかー、真菜は大事に守ってるんだね。よし!私は応援する。本当の結婚式まで守り抜くんだよ、真菜!」

 鏡に映る真菜に、希は拳を握ってみせた。

 そんな会話が出来たのはそこまでだった。

 事情を知ったヘルプのスタッフが、バタバタと控え室を行き来する。

 「真菜ー、ドレス7号で入る?璃子ちゃん用に用意してたのでいけるかな?」
 「真菜ー、足のサイズ何センチ?ヒールの高さどれくらいにする?」
 「真菜ー、指輪はめてみて。7号で大丈夫?」

 希にメイクされながら、手と足は別の人に指輪や靴を試される。

 もはや着せ替え人形の気分だった。
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