アンコール マリアージュ
 「お前の部屋はここ。ベッドやひと通りの家具は入っている。足りない物はあるか?」
 「ええー!こんな広いお部屋を使ってもいいんですか?」
 「ああ。だから、足りない物は?」
 「ありません!ありませんとも!」
 「そうか、なら自由に使え」

 そう言って出て行こうとする真を、真菜が呼び止めた。

 「真さん、本当にありがとうございます。何てお礼を言えばいいのか…。いつか必ずこのご恩はお返ししますので」
 「そんな事は気にするな。会社の義務でもあるしな」
 「え?」
 「いや、まあいい。それより何か飲むか?」
 「じゃあ、私がコーヒー淹れますね!」

 二人でキッチンに行き、真新しいソファでコーヒーを味わった。

 「そう言えば、お前、夕飯は?食べたのか?」

 ふと思い出したように、真が真菜に聞く。

 「残業中に、少しおにぎり食べました。真さんは?」
 「俺は、まあいつも適当に、時々つまむ程度だが。何か食べるか?」

 そう言って立ち上がると、冷蔵庫を開ける。

 「秘書に頼んで、食材や惣菜を入れて置いてもらったんだ。んー、何だこれ?」

 真菜も立ち上がって、真のもとへ行く。

 「これは、パエリアみたいですね。このまま温めれば食べられます。こっちは、アクアパッツァかな?」
 「何だって?」

 怪訝そうな真に、真菜は思わず笑い出す。

 「私がやりますから。真さんは座ってて下さい」

 そう言って、キッチンの棚の中を確認すると、フライパンや調味料を取り出す。
 
 「パエリアは、オーブンでもう少し焼き色付けようかなー。アクアパッツァも、オリーブオイルで少し炒めて…あ、白ワインがある!」

 ひとり言を言いながら、手際良く準備すると、ダイニングテーブルに並べていく。

 「はい!出来ました」
 「はやっ、もう出来たのか?」
 「仕上げるだけの簡単クッキングですから。さ、召し上がれ」

 真菜は、食器戸棚をゴソゴソと探りながら、カトラリーを真の前に並べていく。

 「お前は?食べないのか?」
 「いただいてもいいですか?」
 「もちろん。あ、ワインもあるぞ」

 そして二人で乾杯する。
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