アンコール マリアージュ
 「うまい!レストランの料理みたいだ」
 「本当ですね。秘書さん、きっと高級なお店で買ってくれたんでしょうね」
 「いやー、でも単純に温めただけじゃないだろう?仕上げのひと手間があるからうまいんだ」
 「うふふ、良かったです。でも、普通なら引っ越しの日はお蕎麦なのに、さすがは専務取締役ですね。庶民とは違います」

 すると真は、お?と顔を上げる。

 「お前、ようやく俺の役職名覚えたのか?」
 「そうなんです!だから使いたくて。ね、専務!」
 「やめろ」
 「えー、何でですか?」
 「何か嫌だ。それにお前、専務がどんな仕事をするのか、分かってないだろう?」
 「え、そうですねー。デスクに座って、書類にハンコを押す仕事?」

 はあ…、と真はため息をつく。

 「もういい。黙って食べろ」
 「ええー?どんな仕事なんですか?」
 「どうせ言っても分からん」
 「分かりますよー、教えてくださいよー」

 押し問答しながら食べ終えると、真菜はキッチンで洗い物をしてから、ソファに座って雑誌を読み始めた。
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