アンコール マリアージュ
 「何を読んでるんだ?」

 真菜の分のコーヒーをテーブルに置きながら、真が隣に座る。

 「あ、ありがとうございます」

 そう言ってコーヒーをひと口飲んでから、真菜は真に雑誌を見せた。

 「今日発売の、結婚情報誌です。私、毎月買ってるので」
 「ああ、うちも載せてるやつか。でも、毎号ほぼ同じ内容だろ?」
 「そうなんですけどね。見てるだけでも楽しいので、つい」

 ペラペラめくっていたかと思うと、急に手を止め、ペンケースからハサミを取り出して切り抜き始める。

 何をしているのかと真が黙って見ていると、やがて真菜は、雑誌の下に置いていたスクラップブックに、切り抜いた写真を貼り付け始めた。

 「それは?」
 「いいなと思った写真をまとめてるんです」

 真に見えるように、真菜はスクラップブックのページをめくっていく。

 「ドレスやヘアメイク、式場やチャペルの内装、テーブルコーディネート、引き出物、ウェルカムボードとか、参考になりそうなものを貼ってあります。写真のアングルとかも参考になるし…」
 「ふーん。でも他はともかく、ドレスは衣裳事業部が仕入れてくるし、どうにもならんだろ?」
 「そうなんですけど、ほら、ベールやアクセサリー、あとヘアメイクやブーケでもイメージ変わるじゃないですか?だから、自分の出来る範囲で工夫して、良いご提案を出来たらなって。感覚を養って、アイデアの引き出しを増やしておきたいんです」

 へえーと真は感心する。

 海外事業部にいた時も、しょっちゅう挙式に立ち会っていたが、そこまで細かく気にした事はなかった。

 (女性社員は、みんなこんなふうに日々研究しているのだろうか。いや、ここまで熱心な社員は知らないな。ん?)

 真は、テーブルにもう一冊スクラップブックがあるのに気付く。

 「そっちは?」
 「え、そっち?あ、これは…違うんです」

 真菜は、慌ててもう一冊のスクラップブックを雑誌の下に隠す。

 「何だよ、気になる」

 そう言って手を伸ばす真から、真菜は必死で遠ざける。

 「いいんです。これはお見せする程の物では…」
 「ふーん…、そっか」

 真が諦めてソファに座り直すと、真菜はホッとしてまた雑誌に目を通し始めた。

 次の瞬間、いきなり真が真菜の手にした雑誌を持ち上げる。

 「え、何?」

 びっくりして顔を上げた真菜は、真の視線の先を追って、あ!と慌ててスクラップブックを胸に抱えた。

 「…見たでしょ?」

 真菜は真をじろりと睨む。

 「見てないよ」
 「嘘だー」
 「見てない。見えただけだ」
 「ほら!見たんじゃない」

 真はボソッと、見えた表紙の文字を呟く。

 「真菜のDream Wedding♡」
 「もう!言わないで!!」

 くくっと真は笑いを堪える。

 聞くまでもない。
 きっと自分の結婚式のイメージを膨らませて、色々な切り抜きを貼っているのだろう。

「楽しみだな、お前の結婚式」

 真は、真っ赤な顔で頬を膨らませている真菜に笑いかけた。
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