アンコール マリアージュ
 「お疲れ様です、フルールです!」

 やがて提携しているフラワーショップの店長の有紗(ありさ)が、ブーケを届けに来た。

 「今日のモデルさん、璃子ちゃんって聞いたので、ゴージャスなクレッセントブーケにしてみましたー」

 そう言ってブーケを見せながら鏡を覗き込み、あら?と驚いたように瞬きする。

 「真菜ちゃん?え、今日の新婦さん役って真菜ちゃんなの?」
 「あ、はい。そうなんです。かくかくしかじかで…」
 「ぷっ!かくかくしかじかって、本当に使う人初めて見たわ」

 有紗が笑い出すと、希も頷いた。

 「でしょー?真菜って古風だよね」

 思わず膨れっ面になる真菜を、有紗がじっと見つめる。

 「わあ、でもさすが希ちゃんね。真菜ちゃんがとっても大人っぽくなってる」

 え?と真菜は鏡の中の自分を見た。

 まだメイクも途中だし、髪もカーラーで巻いたままだが、確かにいつもの自分とは違う。

 目はぱっちり大きく、肌はきめ細やかに輝くような感じがする。

 「そりゃね、私の手に掛かれば、お子ちゃま真菜だって綺麗な花嫁に大変身よ!」

 希がふふっと自慢げに言う。

 「何ですか、そのお子ちゃままま、お子ちゃまな、お子ちゃ…?」

 抗議しようとしたのに上手く言えない真菜を、希と有紗が可笑しそうに笑う。

 「まあまあ、ここは黙って希ちゃんにお任せしたら?真菜ちゃん」

 真菜は、口を尖らせつつ頷く。

 有紗はもう一度ふふっと笑ってブーケスタンドにブーケを挿すと、希に小さな花をいくつか差し出した。

 「希ちゃん、これブーケに使った花と同じものなんだけど、髪飾りに使う?」
 「うわー、ありがとう!使わせてもらうね。って、もうこんな時間!大変」

 やがてチークとリップでメイクを仕上げた希は、ものすごいスピードでカーラーを外し、真菜の髪をアップでまとめた。

 くるんと毛先を遊ばせたまま、少しふんわりと柔らかくピンで留めていき、所々に生花を飾る。

 最後に小さなティアラを載せてから、うん!と希は満足そうに頷いた。
< 8 / 234 >

この作品をシェア

pagetop