アンコール マリアージュ
 「さ、真菜。カーテンの中でドレスに着替えて」
 「はい。あ、このパニエは璃子ちゃんに合わせたものだから、私はもう少しボリュームないとドレスを床に引きずっちゃうかも…」

 そう言ってパニエを大きなものに取り換えてから、ドレスのファスナーを全部下ろしてパニエに被せる。

 ブライダル用のコルセットを着けて、真菜はパニエの真ん中の空洞に足を入れた。

 ゆっくり腰の位置まで上げてから、まずはパニエをウエストで留める。

 そしてドレスに両腕を通してから胸元まで引き上げた。

 「どう?入っていい?」
 「はい、大丈夫です」

 希をカーテンの中に招き入れ、背中のファスナーを上げてもらう。

 「オッケー。じゃ、次は靴ね」

 用意してもらった白いブライダルシューズを履いてみる。

 「ドレスの丈の長さもちょうどいいわね。ちょっと歩いてみて。裾、絡まったりしない?」

 真菜は、左手でドレスの前を摘んでから少し歩いてみた。

 「大丈夫そうです」

 「よし!じゃあ最後はアクセサリーね。ひゃー、残り15分!ギリギリね」

 希は、ネックレスとイヤリングのセットを何種類か持ってくると、ケースを開けて鏡の中の真菜と見比べながら選んだ。

 「これはどう?ドレスの刺繍とも合うんじゃない?」
 「あ、はい」

 希はそっと手に取ると、真菜に着けてくれる。

 眩い煌きのネックレスと耳元で揺れるイヤリングに、真菜はなんだかとても嬉しくなった。

 「うん!綺麗な花嫁の完成!」

 少し離れて鏡を見た希が、ようやくホッとしたように微笑む。

 「真菜って、素材はいいよね。いつもほぼすっぴんみたいな感じじゃない?ちゃんとメイクすれば、なかなかの美人よ。身長も、璃子ちゃん程はないけど、高い方でしょ?」
 「あ、はい。165cmなんですけど…。それより、あのー」
 「ん?何?」
 「その…。新郎役は、どなたが?」
 「……………」

 5秒の沈黙の後、希は声にならない悲鳴を上げながら控え室を飛び出して行った。

 壁の時計は、11時20分を指していた。
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