アンコール マリアージュ
 「あのね、拓真くん。ちゃんと説明するから聞いてくれる?」
 「…分かった。一体どういう事なんだ?」
 「うん。まずね、本当に私と専務は付き合ってないの。でも私が少し、なんて言うのかな、ちょっと危険な目に遭った時に、たまたま助けてくれた事があって。それで、そのあとも私の身に危険が及ぶのを心配して、今、そうねえ、保護してもらってる、みたいな感じかな?」

 はあ?!と、拓真は呆れた様な声を出す。

 「なんだよ、それ。拾われた子猫じゃあるまいし。大体、保護ってなんだ?匿われてるのか?」
 「うん、まあ、そんな感じ」
 「それって、一緒に住んでるって事か?」
 「いや、そういうニュアンスではなくて…。だから本当に保護されてるっていうか」
 「ふざけんなよ!何だよそれ?そんな話あるかよ?!結婚もしてない男女が一緒に住んで、保護されてるだ?そういうのをな、同棲って言うんだよ!」

 真菜は、拓真の勢いに押されたように立ちすくみ、涙で目を潤ませている。

 「ど、どうしたの、拓真くん。どうしてそんな…」

 拓真はようやく、真菜を怖がらせる程、取り乱してしまった事に気付いたが、だからといってこの感情のやり場がない。

 くそっと下を向いて呟くと、拓真は足早に、真菜の前から立ち去って行った。
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