これが恋だなんて、知らなかったんだよ。
それぞれが抱えるもの
「さくのー?桜乃~、朝だよ桜乃ちゃーん」
トントン、トントントン。
返事がない娘の部屋の前、とうとうお母さんはガチャッとドアを開けてきた。
「学校、今日も無理そう?」
「……うん」
「さすがに2日連続だと、どちらかというと亀さんチームの桜乃はウサギさんチームに追い抜かされちゃわない?」
こういうときのお母さんの言葉選びには毎回と言っていいほど感心する。
小さいときから何度か「学校に行きたくない!」とぐずったことがあった私だからこそ、お母さんはこなれたもの。
病院に行くようなものじゃない、とは伝えてあったから、お母さんもそうは言わない。
そして、無理やりにでも「学校へ行け」だけは言わない。
「……確かに勉強はやばい…かも、だけど…。でも本当に力が出なくて、…ごめん」
「うんうん。スタートする前に毒でも飲まされちゃったパターンね」
「……そう、それなの」
あってるかは分からないけど…たぶんそんな感じ。