これが恋だなんて、知らなかったんだよ。




この日は朝から空がどんより雲っていて、帰る頃には大降りになって降り出した恵まれない日だった。


日直の学級日誌を職員室へ届けて教室に戻る途中、隣クラスの前を通った私の耳に。

男子高校生特有の会話が聞こえてくる。



「彼女?」


「は?3組の一ノ瀬 桜乃(いちのせ さくの)さんと付き合ってたよな?」



ご丁寧にフルネームでどうもありがとう。

どう考えても目立たない私なのだけど知ってくれているということは、わりと彼が話題に出してくれていたのかな。



「あー、うん」


「おっと。そろそろ破局か?」



そう思うよね、さすがに今の返事は。

彼女である私ですら不安が渦巻いたくらいなのだから。


無関心、無頓着、興味なさげ。


“そういえば”みたいな返事。



「いや、別れたくはねーんだよな」



私は、勝吾くんを信じたい。
そっちの意味じゃないって、思いたい。

だから周りの男の子たちは「ノロケ?」なんて言ってからかうべきなの。


別れたくはない。


そう言ってくれたのに、どうして素直に喜べなかったんだろう。



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