これが恋だなんて、知らなかったんだよ。




「…うま」



甘いね、とつぶやく声のほうが明らかに甘かった。


口にしていない私ですら、その甘さが分かってしまう。

たぶんクッキーよりもずっとずっと甘い空間にいるんだ、いまの私は。



「み、三好くんは、誕生日とかって…」


「…笑わない?」


「え?」


「実は10月なんだよ俺」



夏、では、ない。

奈都だからナツで夏だなんて、やめてしまおうそんな決めつけ。



「秋生まれの奈都。歳の離れたいとこの兄ちゃんが付けてくれたらしいんだけど、たぶんそいつがアホなんだ」



三好くんにバレない程度に小さく小さく笑ってしまった。

そうだったら面白いなあって、出会ったばかりの頃に思っていたっけ。



「センパイは春っぽい」


「2月なの」


「ほらやっぱり。……え?」


「…冬生まれの、桜乃です」



同じ、それだけ。
それもきっと、たまたまなだけ。

でもこんなにも嬉しいものがこの世界にあるなんて知らなかった。



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