これが恋だなんて、知らなかったんだよ。
「お腹にいるって分かったのが4月だったみたいで、そこでもう嬉しくて名付けちゃったんだって」
お母さんとお父さんさんは今でもその話をするとき、見たことがないくらい愛情にまみれた眼差しを私に向けてくる。
「そっちはまだいい理由だけど、これぜったい法廷闘争。俺たちで吹っ掛ける?」
「ふふっ」
笑ったはずが、私の頬にはポタリとひとつ流れ落ちた。
はっと気づいた三好くんは何かを言いかけたけれど、それはやめて、しばらくのあいだ私のことを黙って見つめていた。
手の甲でごしっと拭っても、そんな自分自身を遊ぶように流れる。
「う…っ、…っ」
「…どーしたの、センパイ」
「…わから…ない、」
楽しいと泣きたくなって、幸せだなあって思っても泣きたくなる。
だからこそ、だからこそ。
いつか高田さんのほうへ行っちゃうんだと思うと、胸がはち切れそうで、息ができないくらいに苦しくて切ない。
『好きなだけ貸してはあげるけど、貰えると思ったら大間違いだから』
それはとても、確信と自信に溢れていた。
どんなに私が三好くんと仲良くなったところで、三好くんが選ぶのは高田さんだと。