これが恋だなんて、知らなかったんだよ。
─────けれど。
予定していたプール前日の夜だった。
彼から、それはもう静かすぎるほどの電話がかかってきたのは。
「───…え…?」
『ごめん。セレナと行くから』
「ど、どうして…?だって、水着とか…明日も駅に待ち合わせして一緒に行くって、」
『俺はセレナと行く』
それだけで、もう電話もメールもできないことを悟った。
それだけで、彼は高田さんを選んだことが分かった。
彼は三好 奈都なのだと。
こんな目立ちもしない私なんかとつるむ人間ではなく、誰もが認める高田 セレナとつるむべき三好 奈都だったのだ。
「み、三好く───」
『ごめん』
そこで切れた電話は、2度とかかってくることは無かった。
準備した荷物。
可愛いと言ってくれた水着に、屋外プールのため、熱中症対策に買い揃えたいろんなグッズは。
あわれに、寂しそうに、ベッドに転がっていた。
『俺は手に入れることだけが正しいわけじゃないって、知ったんだよ。
あえて手放すことで見えてくるものだってあるはずなんだ』