これが恋だなんて、知らなかったんだよ。
優しい人
知らなかった。
色がない世界があるなんて。
通学途中に咲く花を見ても、雲ひとつない空を見ても、聞こえてくる音も声も。
まるで絵の具を忘れてしまった絵画のような白黒の世界。
「見た見た!?一緒に登校してたね!」
「昨日も一緒にお弁当食べてたっぽいし、ラッブラブ~」
「今回のことがあって逆に親密になったって感じ!?」
ひとの心は、こんなにも簡単に変わってしまう。
少し前は高田さんが振られたことを楽しげに噂していた女子生徒が、今度は手のひらをころっと返したように新しい噂を立てる。
夏休み明けの学校は、なつセレカップルの話題で持ちきりだった。
「セレナちゃんまたどんどん可愛くなってるし!あれじゃない?夏休み中にさ…ほら、」
「それってそれって!もしかして三好くんと経験しちゃったってこと!?」
「しっ!聞こえちゃうって!!」
耳を塞ぎたい。
激しく脈をうつ動悸に胸が引き裂かれそうだ。
音なんか消えちゃえばいい。
目に見えるものもぜんぶ、ぜんぶ、無くなっちゃえばいいのに。