これが恋だなんて、知らなかったんだよ。
どうしよう、とりあえずパスタを茹でなくちゃ。
「はい、ミートソースパスタできました」
「あっ、どうもでーす」
そんなとき、いつの間にか完成していたミートソースパスタが山内さんへと渡された。
先輩スタッフにも山内さんにも安心を与えたのは、キッチンに入った新人の伊武(いぶ)くん。
「ありがとう伊武くん!ほんと助かったわあ!」
「いえ」
彼はピンチを救ったスーパーマンだというのにひけらかすことなく、自分の持ち場へとスタスタ戻っていった。
呆然と立ちすくむ私にクスッと笑ったのは、ホールへ向かっていった山内さん。
新人に助けられている、怒られてばかりの仕事ができない先輩バイト。
きっと山内さんのなかでの私のイメージはこれだろう。
「どうして私にはできないのかなあ…」
街灯の下、伸びるはずの影すら見えない。
頬を撫でる9月の夜風が唯一、生ぬるいな…と感じることができる程度。
これじゃあ逆戻りだ。
勝吾くんに尽くしていた頃の私と、まったくおんなじ。
「がんばってる…のに…」