これが恋だなんて、知らなかったんだよ。
「っ…!」
ゆっくりドアを開けると、唯一置かれているベンチに座っていた男子生徒。
誰かをずっと待っていたのか、すぐに私の方向へ首を動かしては微かに目を開く。
「み、みよ……、っ、……」
もう名前も呼んではいけないかもしれない。
あれ以来パタリと消えてしまった日常は、私はもうこの人と関わってはいけないというお知らせのようなもの。
落としそうになったお弁当箱をぎゅっと抱えて、背中を向けようとした───とき。
「……さくの」
それはズルいと思った。
ズルすぎるよ、三好くん。
そんなふうに呼んでくれたのは今日が初めてだなんて、こんなときだなんて。
久しぶりに見た三好くんの目は、まるで光を失った子供のようだった。
「っ…、」
プール、楽しみにしてたの。
夏祭りも一緒に行きたかった。
プールではウォータースライダーに一緒に乗って、夏祭りではかき氷を食べようって約束していた。
あんなに楽しく毎日計画していたのに、『俺はセレナと行く』という言葉だけで消えちゃったんだよ。
「ごめん」