これが恋だなんて、知らなかったんだよ。
それを遠くから見ていることしかできない私たちは、なんて惨めったらしいんだ。
「だから、センパイ。俺たちも同じことしてやろうよ」
同じこと…?
そんなのできない、しちゃダメだ。
あんなのと同じに成り下がるだなんて。
じっと見つめてくる後輩に何も言うことができない代わり、「う、」と、たまに嗚咽(おえつ)が出てしまう。
「あれは……きっと、なにかの間違いで、」
逃げたい、こんなの見たくない。
早くバイトに行かなくちゃ。
こんなことで遅れるわけにはいかない。
なんのために私はそんなに必死にアルバイトしているんだっけ?
ああそうだ、勝吾くんに新しいゲームソフトを買ってあげるため。
「っ…、ひ、人違いかもしれないし…、もし勝吾くんだとしても、きっとなにか理由があっ───、きゃ…っ!」
いつの間にか背後に立たれて、ガシッと、頭が固定される。
逸らすなよ、逃げんな、まっすぐ見ろ───という言葉が、耳元を震わせる怒りを持った吐息だけに含まれていた。