これが恋だなんて、知らなかったんだよ。
奈都side




楽しみにしていた。

プールも夏祭りも、俺は本当は行きたかったんだ。



『あたしもう、死ぬから』



そんな電話が来たのは、夏休みに入って予定していたプール前日の夕方のことだった。


いつも何かあればそう言って俺の気を引こうとするのはセレナの悪い癖のようなものだったけど、そのときは状況がいろいろ違っていて。

一方的だったが別れを告げて、学校中ウワサだらけで、それはセレナにとって過去のいじめを思い出させるものだったのだろう。



『ナツくんに捨てられた。学校の奴らだってみんなしてあたしのこと嘲笑ってる。
あたしが今まで積み上げてきたものぜんぶ、ぶっ壊れた』


「待て、今どこ」


『電車の前。次の急行でいくから』



すぐに俺は電話を切って、走った。


抑揚のない声、覇気すら感じられない声。

本気で実行する気なんじゃないかと、俺は怖かった。



「わ、ナツくん!本当に来てくれたあ!」


「……なに…してんの」


「じゃあ彼氏が来たからまたね?ばいば~い」



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