これが恋だなんて、知らなかったんだよ。
駅にいることは本当だった。
けれどホームに座っているセレナは、スマートフォンを耳に当てて陽気に笑っていて。
駆けつけた俺を見てはもっと楽しそうにはしゃぐ姿に、もう狂っていると思った。
「やっぱりナツくんはあたしのために来てくれる!」
「…死ぬ、って」
「そう言ったからほら、そんなに走って来てくれたんでしょ?ちょーウケるんだけど!」
俺じゃなくて良かっただろ。
いま電話で話してた男でも変わらないだろ。
俺はもう別れた。
俺には今、本当に大切にしたい人がいる。
ぐっとこぶしを握って立ち去ろうとすると、セレナは「いいの?」と、低い声で言ってきた。
「あたしがいま生きづらい立場にいることは本当のことだよ。でもそれって誰のせいかなあ?」
自分のせいでしょ。
お前は間違えすぎてんの、ぜんぶを。
愛情を依存に変えて、優しさを執着に変えて。
俺は…なにも飾らないセレナが好きだったんだよ。
「一ノ瀬 桜乃」
ピタリと、足は止まった。
電車から降りてくる人間の音すら聞こえず、俺の耳にはセレナの不敵に笑った声だけが届く。