これが恋だなんて、知らなかったんだよ。




それから学校内の噂は“デマだった”ということを拡散してもらい、なつセレカップルなるものは前よりも仲がいいと言われるようになって。

俺はセンパイにメールも電話もしなくなって、利用するだけ利用して、期待させるだけ期待させて、最後はポイッと簡単に捨てたような。


そんな、彼女にとって完全なる悪となった。



「……ただ、いま」



見覚えのない車があった。

今までより遥かに感じるようになった疲労感を持って家に帰ったとある日、普段はない男用の靴が玄関にも揃えられていて。



「…だれ?」



リビングから母親のものと思われる声と、そこまで歳のいってなさそうな男の声らしきもの。

母親のハイテンション加減が、だんだん明確なものとさせた。



「お。久しぶり奈都。おまえが高校生とか信じられねーわ」


「……なんでいんの?丹羽 健(にわ たける)」


「なんでフルネームだよ。昔は健兄ちゃん健兄ちゃんっつって可愛かったってのに」



20代半ばの健兄ちゃんは、俺の母方のいとこ。


そう、この男だ。

俺の名前をつけた法廷闘争にまで持ち込むべき人間は。



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