これが恋だなんて、知らなかったんだよ。




「たまたま用があって近くを通ったから寄ったんだ。つーか、高校生にしては遅い帰りだな。バイトでもしてるのか」


「…塾だよ塾」



健兄ちゃんはこう見えて、なんと隣町で高校教師をしている男だ。

担当教科は確か…保健体育だったか。



「あら奈都、ご飯は?」


「食べてきた」


「ええ?もう!メールしなさいって!」


「今日はいらないって朝言ったじゃん」


「……これからはメールして!!」



無理だ、もう。

母親のテンション高めな文句を聞き流すことでいっぱいいっぱいなくらい。


少し前に、屋上で最低なことをした。


結果としてそうさせたのはセレナだったが、センパイをあんな顔にさせて、あんなものを見せて。

俺はただセレナの言いなり人形でいるだけで、何もできなかった。


それでいて「さくの」と名前を呼ぶんだから、それはもう終わってる俺も。



「奈都、入っていいか?」


「だめ」


「入るぞー」



教師ならもっと常識を身につけるべきだ。

駄目と言ったはずが2秒で俺の部屋に入ってきた、万年ジャージ男。



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