これが恋だなんて、知らなかったんだよ。
「あーじゃあ、そこにある課題やっといて丹羽せんせー」
「わりーな。保健体育の俺は数学は無理だ」
「ほんと使えない」
「たとえできたとしてもやってやるわけねーだろ。俺は生徒を育てる教師だぞ」
歳が離れているため、小さい頃からしょっちゅう顔を合わせていたというわけでもないけれど。
この男とは波長が合う。
と、思ったのは俺が中学くらいのとき。
それは、いじめられている同級生の相談を唯一していた相手だから。
「学校どうだ?」
「ふつー」
「あの子、どうなった?」
「ふつー」
「メンマ好きか?」
「ふつー。……いや、きらい」
久しぶりに健兄ちゃんが来たことだし、適当な相づちは帰ったあとに後悔しそうだ。
ベッドにうつ伏せになっていたが、俺は身体を起こして座った。
「健兄ちゃん、なんで俺のなまえ奈都にしたの?」
「あー…」
「はい適当ね。だったらせめてアキにしてよ」
意外にも由来を聞いたことがなかった。
それもそうだ。
昔の俺は、健兄ちゃん健兄ちゃんと言って追いかけていた俺は、彼が名付けてくれたというだけで嬉しかったのだから。