これが恋だなんて、知らなかったんだよ。
「余計俺は末っ子だったからこそ、いとこであるお前が生まれるのを楽しみにしてたんだけど。…なんとなく、男が生まれるって思ってたんだよな俺」
「…じゃあ俺は、ナッツの生まれ変わりってこと?」
「いや、ちがう。ナッツはナッツだ。俺の本当の兄弟でもある犬だ」
「…なんなの」
「もちろんそういうのもあったら嬉しいし、忘れたくないって意味も込めてたが。
逆にナッツとの区別を明確にするためにも、ちょっとちがう“ナツ”って名前をつけて、漢字を当てたのはお前の親」
ここまでちゃんとした由来があったことを知ると、嫌でも文句は言えなくなる。
センパイだって親からとてつもない愛情を受けて育っているのが、あのとき教えられた理由だけで分かったくらいだ。
冬生まれの、桜乃。
秋生まれの、奈都。
そこだけでも繋がっていればいいかと、ここはもう妥協するしかない。
「んで、何にそんな悩んでんだよ奈都」
「………」
この人はそこまでいろんなものを気にしていないように見えて、本当はかなり周りを見ている。
まあ、じゃなかったら教師としては無能だろうし。
「…優しい人になったつもりだ、俺は」
「やさしいひと?」
「…これで、よかったんだよ」
これしか無かった。
結局は傷つけてしまったけれど、もっと傷つけるハメになるところだった。