これが恋だなんて、知らなかったんだよ。




「余計俺は末っ子だったからこそ、いとこであるお前が生まれるのを楽しみにしてたんだけど。…なんとなく、男が生まれるって思ってたんだよな俺」


「…じゃあ俺は、ナッツの生まれ変わりってこと?」


「いや、ちがう。ナッツはナッツだ。俺の本当の兄弟でもある犬だ」


「…なんなの」


「もちろんそういうのもあったら嬉しいし、忘れたくないって意味も込めてたが。
逆にナッツとの区別を明確にするためにも、ちょっとちがう“ナツ”って名前をつけて、漢字を当てたのはお前の親」



ここまでちゃんとした由来があったことを知ると、嫌でも文句は言えなくなる。

センパイだって親からとてつもない愛情を受けて育っているのが、あのとき教えられた理由だけで分かったくらいだ。


冬生まれの、桜乃。

秋生まれの、奈都。


そこだけでも繋がっていればいいかと、ここはもう妥協するしかない。



「んで、何にそんな悩んでんだよ奈都」


「………」



この人はそこまでいろんなものを気にしていないように見えて、本当はかなり周りを見ている。

まあ、じゃなかったら教師としては無能だろうし。



「…優しい人になったつもりだ、俺は」


「やさしいひと?」


「…これで、よかったんだよ」



これしか無かった。

結局は傷つけてしまったけれど、もっと傷つけるハメになるところだった。



< 208 / 267 >

この作品をシェア

pagetop