これが恋だなんて、知らなかったんだよ。
「なあ健兄ちゃんの学校にさ…、すっごい面倒な恋してる生徒とかっていない?」
「……面倒な恋かは分からないが、一般とは少し変わった恋をしてる生徒ならいるな」
「なにそれ。親が決めた婚約者とか?」
「まあ…それは秘密」
「…なんでよ」
そんなの言ったら俺たちも十分変わっていそうだ。
お互いが浮気されて、最初は見返すためだけのゲームとして関わって。
でも、ほんとうは。
俺は少し、気になっていた。
あのときファミレスの駐車場で泣いていた女の子が同じ高校の先輩だと知って、ほんのちょっとだけ、気になってたんだ。
「教師してると常々感じるわ。高校生には高校生にしか味わえない悩みがいろいろあるよなって」
「…あのさ、嘘ついてまでも離れようとしたパターンってない?」
「…俺もそれはある」
「え?あんの?」
秘密主義の健兄ちゃんのことだから期待はしていないが、一応のところは聞いておいた。
「立場もあるし、勝手には動けねーから。そりゃあ…ときには無理にでも離れなくちゃいけない場合だってある」
「まさか生徒に恋した、とか?」
「………。ただ、自分の気持ちに嘘をつき続けることはぜったい無理だ。
いずれどこかで苦しくなるし、無意識にも近づいたり考えたりしてる」