これが恋だなんて、知らなかったんだよ。
あえてヒントを与えてくれるかのように、伊武くんはともちゃんの左手をそっと握った。
それだけで胸の奥がうずくような、少女マンガの1ページを目の前にした気持ち。
「お、おふたりはっ、カップルさん、で…?」
「ピンポ~ン!」
恋する女の子。
女の子はその瞬間がいちばん輝いていると確信を持ったほどの、ともちゃんの笑顔。
「そうだったんだ……!」
世界は広いようで案外狭い。
もしかすると特別な糸みたいなものがあって、こうして出会うべくひとりひとりを引き合わせてくれるのかもしれない、と。
「ほんとはね?私が直に動きたかったんだけど…、いつも元気がない桜乃を見てる学校ですら何もできないんだから、こういう手しか私には思い浮かばなくて」
騙すようなことしてごめんね───そう言って、ともちゃんは頭を下げた。
「……バイトじゃ、ないんだ」
「え…?」
もう、いいよね。
ここまで私のことを考えてくれる友達に嘘をつき続けるほうが苦しい。
自分を犠牲にして何かを隠すということは、すごくすごく耐えられないほどに苦しいから。