これが恋だなんて、知らなかったんだよ。
「勝吾くん、今日…うちで、一緒にご飯、食べない…?」
「え…?」
「私のお母さんのご飯……すごく美味しいから」
私は、空回っていたんじゃない。
私が頑張って勝吾くんのために出そうとしていた積極性は、そもそも間違っていたんだ。
そのときちょうど玄関が開いた音がして、「ただいま~」と、お父さんの声。
「お、桜乃のお友達かい?」
「そうなのよ~。今日の夕飯はお友達も一緒に4人で食べようって話してたの」
「おお!楽しそうだな」
私は、ここで生まれたの。
私のお母さんはこんな人で、お父さんはこんな人。
勝吾くんが少しでも、たった1度でも好きになってくれた私は、ここで育ったんだよ。
「あら勝吾くん、もしかしてお口に合わなかったかな?…味覚も人それぞれって素敵なことだよね」
「…ちがいます……、っ、すごく温かくて…、やさしい味が、します」
「…ならよかった。ほら桜乃も。桜乃の好きなレンコンの天ぷらあるよ?」
「…うん」
言葉にできなくても、優しさは伝わる。
言葉はすぐに消えてしまうものだけれど、その優しさはずっと、一生、心に残るものだ。
私の精いっぱいがやっと、勝吾くんに伝わってくれたような気がした───。