これが恋だなんて、知らなかったんだよ。




それでセンパイの笑顔があるならいいって格好つけたい部分と、やっぱり俺だってと、欲しがりたい部分。



「だとしても今の一ノ瀬さんは、三好さんのことが好きだよ」



なんでそれを俺は、今日会ったばかりの初対面の男から伝えられるんだ。


それは本人から聞きたかった。

言いたくてもうまく言葉にできない女の子だけど、それでも俺はいつまでだって待つから。


でも実際は、待つとか言っておいて結局は置いてきぼりにして離れたのが俺か。



「…あんなにひどいこと、したのに?」


「え?そーなの?そんなのひとつも言ってなかったけど。すごい…幸せそうに話してたから」



それが彼女なんだろうと、俺も知っている。

さすが彼女だ、とも思う。


そんな彼女の良いところをいつか見つけてやれる男が現れたとき、俺がどう思うかなんてことも分かっている。



「って、よくよく考えたら三好さんはこういう出来事も日常茶飯事だろうから、今更って感じだよな」


「…いや、初めてだよ。あんなに優しくしてもらったのは…初めてだった」


「…たぶん本当の優しさってのはさ、目に見えるものじゃないよね」



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