これが恋だなんて、知らなかったんだよ。




それだけ言って、俺とは反対方向へ歩いていった伊武という人。


“今のこと”を言っていたんだろう。

俺に、“いま感じた気持ちそのもの”が彼女からの優しさだと、伊武さんは教えてくれたのだ。



『…私は、三好くんの誰よりの味方でいたい』



味方なんてものじゃないよ、センパイ。

センパイはもう俺の原動力みたいなものだ。


でも伊武さんよりは俺のほうがぜったい良い男だから、彼はやめておいて本当に。



「ふっ、…アホすぎ」



常に会いたくて仕方がないってのに。

メールしたくて、電話したくて、毎日のように写真を眺めて。


どこかで会えないかなって、センパイと歩いた道をわざと通ったりして、ふたりで行ったゲーセンに行ったりもして。


あの日屋上で会ったときだって、本当は嬉しかった。

来てくれないかなって、本当はずっと思ってた。



「ほんと、身の程を知れよ俺」



水着姿見たかった、浴衣姿も見たかった。

俺だって同じように新しいものを買って準備していた。


ギリギリまで筋トレしたりなんかして、たまには違うヘアセットにしてみようと調べたりして。


ああもう───…苦しーよ、センパイ。



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