これが恋だなんて、知らなかったんだよ。




「反対にひこうき雲がすぐ消えちゃうときはね、空気が───…、っ、…とも…ちゃん…?」



背後からふわっと、首に腕が回った。

明らかにともちゃんではない腕と、重さと、鼻に届いたとある香りに。


空へ指をさしていた私の腕は、ゆっくり、ゆっくりと、震えながら下がってゆく。



「空気が、なに?」


「っ…!!」


「教えて。俺、知らないことばかりだから」



そのアルトな声を聞くだけで、幸せな気持ちになる。

そのホワイトムスクを認識するだけで、ツンと鼻の奥まで刺激される。


心臓はひとつひとつ、確かな脈をうつ。



「くうき……が…、」


「うん」


「くうきがっ、えっと…っ、くうき、」


「うん。ひこうき雲がすぐ消えるときは、空気がどーなるの?」



そうやって、私のペースに合わせながらも優しく引いてくれる。

時には一緒に立ち止まってくれて、また時にはちょっとだけ強引に引っ張ってきたりもして。


どんなときだって、その手のぬくもりは温かかった。



< 255 / 267 >

この作品をシェア

pagetop