これが恋だなんて、知らなかったんだよ。
「反対にひこうき雲がすぐ消えちゃうときはね、空気が───…、っ、…とも…ちゃん…?」
背後からふわっと、首に腕が回った。
明らかにともちゃんではない腕と、重さと、鼻に届いたとある香りに。
空へ指をさしていた私の腕は、ゆっくり、ゆっくりと、震えながら下がってゆく。
「空気が、なに?」
「っ…!!」
「教えて。俺、知らないことばかりだから」
そのアルトな声を聞くだけで、幸せな気持ちになる。
そのホワイトムスクを認識するだけで、ツンと鼻の奥まで刺激される。
心臓はひとつひとつ、確かな脈をうつ。
「くうき……が…、」
「うん」
「くうきがっ、えっと…っ、くうき、」
「うん。ひこうき雲がすぐ消えるときは、空気がどーなるの?」
そうやって、私のペースに合わせながらも優しく引いてくれる。
時には一緒に立ち止まってくれて、また時にはちょっとだけ強引に引っ張ってきたりもして。
どんなときだって、その手のぬくもりは温かかった。