これが恋だなんて、知らなかったんだよ。
「空気が…っ、乾いてるから……明日はね、晴れる……のっ」
腕の力が優しくも加えられて、さらっと、私の頬をかすめる髪。
首筋にかかった吐息の震えは泣いているものじゃなく、きっと笑顔なんだろうって。
首に回った男子生徒の腕に、私の涙がポタリポタリと落ちてゆく。
「できなかったっ、できなかった…っ」
「…なにができなかった?」
「つぎ会ったときは…っ、泣かずに、笑って、名前を呼ぶって決めてたのに……っ」
いつも泣いてばかりだった。
思い返せば、君の前では泣いてばかりだった。
先輩らしくなくて、先輩らしいことなんかひとつもできなくて。
いつもいつも助けられていたね私。
三好くん───、
その言葉すらしっかり言えない私を振り向かせた彼は、もう本当に私のことだけを見つめてくれていた。
「ともちゃんが…、ともちゃんがっ、三好くんになってる…っ」
「ふっ、法廷闘争?」
「ほうてい……とうそう…っ」
キスがひとつ、おでこに落ちてくる。
私の涙を拭ってくれる手も、今はもう震えてなどいなかった。