これが恋だなんて、知らなかったんだよ。
「見返してやろうよセンパイ」
そんなふうに言われたのも、この場所だったね。
そのとき流していた涙とは、種類も、理由も、気持ちまでもが正反対。
「みっ、かえす…?だれ、に…?」
もう見返す相手なんかいないよ。
見返す理由すらないし、もうそんなこと考えてもない。
「今はすっごい幸せだって、見返してやろう。……ここで泣いてた過去の俺たちに」
ここから見える中庭の先、渡り廊下。
今はそこには誰もいなくて、放課後の太陽の光が射しかかっては煌めいている。
花壇には花が咲いていて、最初のときは花なんて咲けるほどの環境は整っていなかった。
でもきっと、そのあと優しさで作られた種が蒔かれて、こんなにもきれいなものを咲かせたんだ。
「───俺たちは本物を見つけたよ、って」
私が種を蒔くから、そこに君が水を与えるの。
いま流しているその涙だって、きっと素敵な花を咲かせるための魔法となるから。
「これが本物だよ、センパイ」
「───…うれしい……っ」
そっか。
これが、────恋なんだ。