これが恋だなんて、知らなかったんだよ。




加藤先生は、数学担当だ。

そこに写っていたノートの切れ端、すぐに分かってしまうほどの完成度。

加藤先生の爽やかな頭皮の繊細さまでもがしっかりと描かれている。



「ふふっ」


「…絵心あるでしょ、俺」


「うん。すごく…うん、加藤先生に怒られちゃいそう」


「実はもうバレて怒られた」



もしかして私を笑顔にしてくれようとした…?

だって、写真の日付。
今日じゃないから。


まだ私たちが出会う前のものだ。


こういう嘘は、うれしい。



「それにしてもすごいね三好くん」


「え、なにが?」



堅苦しいのは苦手だ。

気をつかわれてるんだろうな…って思っちゃうのも苦手。


だったらそれ前に自分が変えるべし。


たったの今まで泣いていた私が話題を作ると、きょとんと目を丸くさせた三好くん。



「“なつセレカップル”って言われてるんだってね…!有名人みたいで凄いなあ」



私は思った。


私が浮気された理由は“つまらない”という、はっきりしたものがあったけれど。

三好くんの場合は、なんとなく、これは女だから分かるものがある。



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