これが恋だなんて、知らなかったんだよ。
この三好 奈都という人気者な1年生とは、校内ですれ違う程度だったかもしれない。
「み、三好くん」
ピリリリリーーーと、ひとつの着信音。
まるで魔法が溶けてしまったように、休み時間があと5分で終わってしまうことを時計が教えてきた。
ありがとう。
それすら言い遅れてしまう私のノロマ加減。
でも、そんな寂しさよりも。
呼び出し音を優先させるかのように離れてしまった腕が、何よりも切なくて。
「もしもし、うん、あー…ちょっと先生に呼び出し食らってた。今から行くから待ってて」
ナツくん───、
その先から聞こえた、甘い声。
「じゃーね、センパイ。授業に遅れないように」
「あ…、うん」
「…と、ちょっと目つむって」
「え?」
影が伸びてきて、思わずぎゅっと言われたとおりに。
「常にポケットにハンカチ入れてるような男じゃないんでね俺」
ごしっ、ごしっ。
袖で急ぎぎみに涙を拭ってくれると、またお礼さえ言わせてもくれずに、背中を向けて行ってしまったホワイトムスク。
ルール2. ただし優先順位は本当の恋人。
私たちは、ニセモノの恋人───。