これが恋だなんて、知らなかったんだよ。




「それに、このほうが浮気っぽいでしょ」


「……うん」



勝吾くんと話すこと、1度も無かったな…。

彼の活躍を見ることもできなかったし、私のほうを見てくれることもしなかった。



「私ね、1回だけボールに触れたの」


「見てた」


「すぐ取られちゃったけど…」


「それも見てた。よくがんばりマシタ」



外から届いてくる音楽と歓声。

きっと高田さんが踊っていて、それを勝吾くんは見つめているんだ。


私たちが今、この誰もいない視聴覚室で会っていることなんか知らずに、楽しんでいるんだ。



「三好くんは仮装リレー、すごく速かったね」


「あんなの周りが遅かっただけだって」


「ふふっ、みんな走りづらいって叫んでたもんね」



たのしい、楽しい。

勝吾くんからメールが来ないことも、何ひとつ気にかけられないことだって。


三好くんと一緒にいるだけで、そんなのどーでもよくなっちゃう。


ああそうか、これが“浮気”なんだね。



「あ、そうだ。三好くんハチマキ返すね」


「別に返さなくても───、……、」


「あっ、ごめんね。苦しかった…?首に巻いてたなあって…」


「…それ無自覚?」


「へ?」



秘密いっぱいの体育祭。

誰にも言えない、体育祭。



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