ジョーになりたかった男(懺悔)
友人の声で我に返った直樹の右拳から血が滲んでいた。


その日の夕方直樹はフラリとジムに現れた。直樹の顔を見るなり、マネージャーの糸山は直樹の右拳から血が滲んでいるのに気が付き、黙ったままソファーに直樹を促すと救急箱を用意する。


傷口を消毒しながら
直樹。お前今度の試合どうする?

直樹は下を向いたまま首を横に振る。

そうか....

糸山はそう言うと骨折をしていないのを確認してから包帯を巻いた。
ボクシングは命を掛けて闘うスポーツだ。本人のやる気がなくなれば決して強制は出来ない。

お前はそれで悔いはないんだな?

直樹は下を向いたまま頷く

判った。今日はもう帰れ
念の為、手を医者に診てもらえよ

はい
小さく消え入る声で返事をするのが精一杯だった。
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