ジョーになりたかった男(懺悔)
直樹は糸山が手続きをする間、周りを見回して自分の対戦相手らしき選手を物色すると...

対戦相手は22歳サウスポー。身長は165cm。直樹より10cm低いと聞いていたので、すぐに見つけた。向こうもこちらに気付いたらしく近づいてくる。

こんにちは。○○ジムの大場直樹選手ですよね
明日はお互い頑張りましょう
と、いうと左手を差しでしてきた。

なかなか紳士的な男だな...と、思いながら...

こちらこそ宜しくお願いします
左手を差し出すと、ギュッ!!と強く握ってきた。

戦いは既に始まってるってことか....と思いながら、直樹も強く握り返した。握力では負けてない。

すると、いきなりリング会場から何やらガヤガヤとうるさい声が響き渡ってきた。

ちょっとぉ〜!!!
これじゃぁ駄目だよぉ!!
リング上で和田がなにか関係者らしき人達に詰め寄っているのが見える。

どうした!?和田!
マネージャーの糸山が駆け寄る。

糸山さん!このリング駄目だよ!見てくださいよぉ!
そう云うと和田はマットの上を飛び跳ねてみせた。

柔らかすぎだよ!これじゃ俺たちアウトボクサーが不利じゃないか!

柔らかいマットはベタ足のファイターには有利だが、フットワーク(足)を使うアウトボクサーにはマットが歪み不利になる。
直樹のジムはアウトボクサー&カウンターを得意とするボクサーが多い。対して今回の北海道の選手はファイターが多い。

やられたな
先輩の伊藤が直樹にぽつりと言った。
ここは敵地だ。明日は判定勝負だとヤバいぜ

どういう意味です?
直樹が問い正すと

ホームタウンディシジョンさ。地元びいきの判定もあるってことだ
伊藤はため息まじりにつぶやいた


望むところだ。始めっから判定勝負なんて考えてないさ。1Rから飛ばしてぶっ倒してやる。

直樹はリング上で関係者と言い合う和田を見つめながら、微笑んだ。
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