神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
…びっくりした。

「うぴゃっ!?」

シルナなんか、びくっとして奇声をあげ、チョコクッキーサンドを床に落としていた。

あーあ…。砕けてるよ、勿体な…。

いや、そんなことより。

「やっほー。来たよー」

「邪魔するね」

来たよ、じゃねぇんだよ。

ここイーニシュフェルト魔導学院において、窓を玄関代わりに、鍵を開けてまで侵入してくる輩は、二人しかいない。

言わずもがな、元『アメノミコト』の暗殺者二人組、令月とすぐりである。

以前は毎日、放課後になると学院長室に来ていた令月だが。

最近の令月は、すぐりの手伝いをするとかで。

毎日すぐりと園芸部の部長の三人で、園芸部の部活動に勤しんでいるとか。

学院に馴染んでくれて、それは喜ばしいことだけど。

しかし、それとこれとは別。

お前ら。学院長室に来るのは良いけど。

来るならちゃんと、扉を開けて入ってこい。誰が窓から入れと言った。

何階だと思ってるんだよ、ここ。

踏み外して落っこちるような奴らではない、と分かっているが。

しかし、窓は玄関じゃないんだぞ。

それなのに、二人共全く気にしていないようで。

「あのね、学院長。かぼちゃのケーキあげる」

令月が、お皿に乗った半分のケーキを差し出した。

は?

「…!どうしたの?これ…」

「園芸部の畑で、かぼちゃが取れたんだけどさー」

「部長が『かぼちゃケーキ作ろー!』って言って作ったけど、予想以上に大きくて。半分食べたらお腹いっぱいになった」

「だから、学院長せんせーにお裾分けしようと思ってさー」

あ、そういうこと…。

「学院長せんせーなら、甘いものは際限なく、いくらでも食べられるでしょ?」

「うん!勿論!」

目、キラッキラのシルナ。

牛か。お前は。

「チョコ味じゃないけど、はい」

「ありがと〜!かぼちゃケーキ〜♪」

一番好きなのはチョコレートだが、甘いものなら、基本的に全般大好きなシルナ。

かぼちゃ味のケーキも、喜んで召し上がるそうだ。

お前はそうだろうな。

「もぐもぐ」

「美味しい?」

「すっごく美味しい!」

「良かったー」

さっき生チョコサンドを落としたことさえ、すっかり忘れているらしいシルナである。

満面笑みで、にっこにことかぼちゃケーキを食べている。

幸せな奴だよ。

「窓から入ってくるな!」とか、「いい加減にしろ!」とか、叱ってくれれば良いものを。

それが出来ないから、シルナはシルナなんだろうなぁ。
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