神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「羽久も食べて良いよ」

と、令月が俺にもケーキを勧めてくれた。

どうも。

「ありがとう」

「美味しい?」

…もぐもぐ。

うん、これはなかなか…。

「うん、美味いよ」

「そっか」

かぼちゃを収穫してから、家庭科室で作ったんだろうか?

手が込んでるな。

「誰が作ったんだ?これ。園芸部の部長?」

「うん。部長が作り方を教えてくれて、皆で作った」

へぇ。器用だな。

あの子本当、こう言っちゃアレだけど、何で魔導学院に入学したんだろう。

魔導師になる勉強をする傍ら、副業感覚でガーデニングもやってます、ってレベルじゃないぞ。

むしろ逆。

本業ガーデニングの傍ら、副業感覚で魔導師の勉強をしていると言っても、過言ではない。

別に良いけど。良いけどさ。

そういう生徒は、なかなかいないよ。

「もぐもぐ。うま〜」

シルナもシルナで、部活ばかりやってないで勉強しなさい、と怒る性格でもないし。

本人達が楽しんでやっていることなら、何でもOKと言わんばかり。

ましてや、お裾分けにケーキなんかもらったら、余計にな。

全く、つくづく幸せな奴だよ。

生徒達が丹精込めて作った農作物を、こうして教師の俺達までもが、ご相伴に預かれるとは。

光栄なことだな…と。

そう思いながら、ケーキにぱくついていた、そのとき。

…さっき閉めたばかりの窓の鍵が、再びガチャッ、と音を立てて開いた。
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