神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
そこに現れた人物を見て、俺も、シルナもびっくりして固まった。

シルナなんか、再びケーキを床に落としていた。

おい。食べ物を粗末にするな。食べ物落とし過ぎだろ。

そして、床を汚すな。

いや、でも。

俺も驚きのあまり、思わず皿をひっくり返しそうになった。

だってついさっき、同じ方法で窓から侵入してきたばかりなのに。

今も、部屋の中にいるのに。

それなのに。

おかわりは如何とばかりに、今しがたかぼちゃケーキを持ってきたのと、全く同じ顔をした人物が。

器用に、鉤爪とワイヤーを駆使して窓から入ってきた。

「来たよー…。…?」

「邪魔す…ん?」

新たに学院長室にやって来た二人は、既に部屋の中にいた、同じ顔をした二人を見て。

お互いに目が合って、しばし時が止まっていた。

…令月が、二人。

…すぐりも、二人。

それは、つまり…。

…このうちのどちらかが、偽物だってことだ。

「…そっか」

「へぇー」

窓から入ってきたばかりの、新令月と新すぐりは、すぐさま爆発的な殺気を放った。

思わず、足が竦みそうになった。

新すぐりは、持ってきていたケーキ皿を床に置くなり、両手に糸を絡ませ。

かぼちゃケーキを持ってきた旧すぐりに向かって、素早い指さばきで糸魔法を放った。

そして。

もう一人の新令月の方も、両手に小太刀を握っていた。

新令月は、俺でも目で追えないほどの速度で、かぼちゃケーキの皿を持つ旧令月に向かって振りかぶった。

…しかし。

新令月と新すぐりの放った攻撃は、旧令月と旧すぐりには効かなかった。

旧令月は、新令月の小太刀を、自らも同じ武器で受け止め。

旧すぐりもまた、新すぐりの糸魔法を、同じく糸魔法で受け止めた。

一瞬の攻防だった。

正直、何が起こったのか、全てが見えた訳じゃない。

しかし、両者共に、凄まじい殺気を放っていることは確かだった。

シルナじゃないが、ケーキを落としそうになった。

「…いつ現れるかと思ってたら、本当に何の前触れもなく出てくるんだね」

新令月が、小太刀を構えたまま言った。

「偽物が何言ってるの?勝手に僕の姿になって、何しようとしてるの?」

旧令月が、新令月の言葉に答える。

その一方で。

「俺と同じ顔の人間は、この世に二人も要らないよ。消えてくれる?」

新すぐりが、両手に糸を絡めたまま言った。

「消えるのはそっちでしょ。偽物が、偉そうなこと言わないでくれる?」

対する旧すぐりが、新すぐりの言葉に答えた。

…も、もう…何が何だか…。
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